とにかく西山太吉さんの勇気には感服する。
その政権批判には本当に胸がすく。
(西山)ノーベル平和賞をもらったことについてケチをつける気はないけれども、ノーベル賞側の完全なミステークだね。沖縄返還のために日本が何をしたか。そして日本のために沖縄返還がどのような効果があったか。そういう分析なんか何もしていない。
(佐高)佐藤は自分の功績のために、日本の主権を事実上放棄した。あまり言いたい言葉ではないですが、売国奴ですよね。消防署が放火犯を表彰するようなものです。
(西山)沖縄返還によって日本は国の形とか機能まで変わってしまったし、南ベトナム傀儡政権を支持し、ベトナム戦争を徹底的に支持した男が、ノーベル平和賞に値するの、ということです。そういう認識はヨーロッパにはない。ただ単に沖縄が帰ってきたというそれだけです。沖縄は日本の領土である。それが帰ってくるのは当たり前なんだけれど、表面的な観察しかない。そういうことが言えると思いますよ。
(佐高)沖縄返還が日本の国の形を変えたとおっしゃる…。
(西山)米国は佐藤政権の弱点を利用して自由使用を取った。その沖縄が日本本土に変換された、ということは、本土の基地が自由使用になったということですよ。日本の国の形が、根底から変わったと思う。日米同盟を維持しながらも米国と一定の距離を保ち、専守防衛を遵守、自衛隊の海外派兵はさせない国から、従来的な日米軍事一体化路線を完成させ、集団的自衛権行使を容認、海外派兵できる国になった。戦後日本の保守政治史を知る者からすると、驚くべき変貌でしょう。
(佐高)誰がどう変えた?
(西山)長州閥の三政権の存在が大きい、というのが私の分析です、それは60年の岸信介政権の安保改定から始まった。旧安保条約から新安保条約に切り換える際に、米国に日本の防衛義務を負わせることとし、そのことが対米依存の固定化を招き、従米を深める要因になった。
(佐高)さらに、72年の佐藤栄作政権の沖縄返還がそれを加速した。政権が自らの手柄としようと、任期内決着という期限をつけたため米国側につけ込まれ、財政負担を含めて膨大な密約を結ばされた。最も本質的問題は、在日米軍基地のベトナム、台湾、朝鮮半島有事への自由使用を認めたことです、そして安倍晋三政権による総仕上げがあった。2015年の安保法制定で、日本が「存立危機事態」になれば米軍を支援するために海外での武力行使が可能になった。その事態判断は、事実上米国に決められてしまうというリスクも伴っている。
(西山)結局、岸、佐藤、安倍のラインというのは、情報公開の阻止者であるね。隠蔽や改ざんや偽情報の根源ですよ、あの三代はみんな長州。長州閥の伝統だね、策略は。
(佐高)山縣有朋が源流のような気もするんですけどね。その政権の横暴に対して、組織を挙げて頑張っているメディアは、沖縄のメディアぐらいでしょうかね…。(p213-215)
現代日本の自民党政治の問題点を見事にあばいている。
私もよく家で日本の政治を批判をつぶやいていると、妻から非国民呼ばわりされているが、それぐらいで発言を控えるようなことでは勇気のあるものとは言えない。
ところで、大戦後アメリカが同じ過ちを繰り返して世界に惨禍を広げているが、これには日本も大いに関与していると思う。
戦後の歴史を俯瞰するとアメリカが取った占領政策で、唯一成功したのが日本だったということだ。他の国ではすべて失敗している。
つまり、日本がいつまでもアメリカの言いなりになっていることによって、アメリカは政策の誤りに気づくことができないままでいる。
日本は何せ1億人以上の人口の大国である。まして戦後未曾有の経済成長を遂げて、アメリカはその甘い汁をチューチュー吸いつづけている。
その甘い汁ともう一度と続けた結果が今の世界の惨禍を生み出している。
ウクライナとかパレスチナなど原因を探れば誤りに気づかないことによる。そしてそれに加担しているのが日本の政府だと断言してよいのではないか。
(西山)戦後において、国家機密が日本のメディアによって暴かれたことがありますか?1回もないよ。西山太吉だけですよ。(p222)
自画自賛だけど、否定するものはいるまい。
それにしても西山さんへの対抗策として検察は最高の手を打ったことになる。後継者が一人も出なかったのだから。
(西山)あの裁判は裁判じゃなかったんですよ。なぜかと言うと、起訴事由はあの400万ドルの軍用地復元補償だけ、それを私が非常手段で入手して出させた。それだけです。起訴事由では、「機密」とありますが、それ自体が偽証で構成されていたのだから、機密でないものを機密漏えいといってなぜ裁判ができるのか。裁判がでっち上げられたんですよ。(p224)
西山さんは冤罪であると主張しているが、実際、検察はそういう失敗を繰り返している。
日本の民主主義なんて、本当にいい加減なものですよ。事実は全部隠し、全部をオブラートに包んで、別の事件に仕立て上げるんだから。それを全部、マスコミも含めて、追従していく。もう機密の要件を失っているのに、まだ機密だ機密だと言っている…。(p225)
政府は機密という言葉で逃げているが、公開しないだけでなく、廃棄・改竄までやるようになった。そんな破廉恥なことも一歩踏み越えてしまえば、何の罪悪感も持たなくなってしまうだろう。
一番残念なことは、このように人間として生まれた人間が人間性を失ってしまうことだと思う。これほどの不幸はない。
(西山)国は都合に悪いものを皆捨ててしまえばいい、ということをある意味容認したね。司法の最終的良心と期待される最高裁の、子々孫々にわたって恥じるべき決定だった。(p232)
このように西山さんは自分の裁判を振り返るが、それ以降の日本の政治全体がたどった結果、われわれ日本人は未だに日本の独立の糸口すら見いだせないままにいる。